東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2719号 判決
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【判旨】
二控訴人が被控訴人の東商事に対する求償権元本一四四一万〇八二七円を支払い、被控訴人から右元本に対する損害金債務の免除を受けた後、控訴人が被控訴人に対し、本件登記の抹消登記手続を求めたところ、被控訴人がこれに応じなかつたので、控訴人が本訴控訴代理人弁護士らに委任して、被控訴人に対し、旧訴訟を提起したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴人は、昭和五六年一月一六日右弁護士らに対し、旧訴訟の弁護士費用として、金五〇万円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
三控訴人は、被控訴人が本件登記の抹消登記手続に応じなかつたことには正当の理由がなく、控訴人に対する不法行為となると主張するので、その点について判断する。
1 <証拠>によれば、控訴人が昭和五一年三月二四日被控訴人との間で締結した本件根抵当権設定契約において、契約書上、その被担保債権は、「被控訴人と東商事との信用保証委託契約から生じる債権」と定められていたこと(第一条)及び右契約に基づく本件登記の債権の範囲は、「保証委託契約」となつていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
他方、<証拠>によれば、本件根抵当権設定契約に先立ち、東商事は、昭和五一年三月二二日被控訴人に対し、東商事が訴外銀行から金三〇〇〇万円を借り受けるにつき、信用保証委託をし、控訴人及び小沢両名は、被控訴人が保証人として東商事の債務を代位弁済したことにより取得することがあるべき求償権につき連帯保証し、控訴人は、右債務を担保するため担保提供をすることを約したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、控訴人は、本件根抵当権設定契約が、右約定の履行としてなされたものであることを理由に、本件根抵当権の被担保債権を定める「被控訴人と東商事との信用保証委託契約から生じる債権」とは、東商事が被控訴人に信用保証委託をしたうえ、訴外銀行から借り入れた金三〇〇〇万円の債務についての代位弁済による求償権であり、それ以外の債権は含まれないと主張する。
2 しかしながら、<証拠>によれば、
(一) 東商事は、本件根抵当権設定に先立つ昭和五〇年一一月一三日被控訴人に対し、東商事が住友生命から金二五〇〇万円を借り受けるにつき、信用保証委託をし、代田及び小沢両名は、被控訴人が保証人として東商事の債務を代位弁済することにより取得することのあるべき求償権につき連帯保証し、代田は、右債務を担保するため、担保提供をすることを約し、昭和五〇年一二月一八日被控訴人との間で代田所有地につき、極度額金三〇〇〇万円、被担保債権の表示を本件根抵当権と同じくする代田根抵当権を設定し、その旨の登記をした。
(二) 住友生命は東商事に対し、金二五〇〇万円を貸し付け、被控訴人、代田、小沢両名が東商事の右債務につき連帯保証したが、東商事は、右債務の分割支払いを怠り、期限の利益を失つたので、被控訴人は、昭和五四年一一月二九日住友生命に対し、東商事の残債務金二〇五三万二五四六円(残元金一八五六万円、利息金一九七万二五四六円)を代位弁済し、被控訴人主張のように代田根抵当権は確定し、代田は、昭和五四年一二月二八日被控訴人に対し、被控訴人が右代位弁済により取得した求償金債権元本及び約定の損害金合計金二〇七四万六〇八四円を完済した。
(三) 被控訴人は、本件根抵当権及び代田根抵当権の各設定契約における被担保債権を前記認定のように「被控訴人と東商事との信用保証委託契約から生じる債権」とする定めは、民法第三九八条の二第二項の「債務者との一定の種類の取引に因りて生ずる債権」を定めるものであつて、被控訴人と東商事との間の保証委託契約による一切の債権に及び、右各根抵当権設定契約に際しての個別的な信用保証委託において特定された債権に限定されないものと理解してきていた。そして、代田根抵当権と本件根抵当権については、相互に共同担保とする定めはなく(従つて、同一の債権を担保するものとすればいわゆる累積根抵当となる。)、又被控訴人と東商事及び前記認定の連帯保証人及び担保提供者との間には、被控訴人の代位弁済による求償関係につき、被控訴人には負担部分がなく、東商事らは、被控訴人の代位弁済額及びこれに対する約定の損害金につき求償に応ずる旨の特約が存した。そこで、被控訴人は、代田が前記認定の合計二〇七四万六〇八四円を完済したことにより、同人が、右弁済額を連帯保証人小沢両名、連帯保証人兼担保提供者代田、担保提供者控訴人の頭数に応じて按分した一人につき金五一八万六五二一円の範囲で小沢両名に対し、それぞれ被控訴人が有していた求償権を代位取得し、控訴人との間では、相互に担保提供者として、右弁済額のうち残り金一〇三七万三〇四二円を代田所有地と本件土地との価格に応じて按分した範囲で控訴人に対し被控訴人が有していた求償権を代位取得し、これに伴い、本件土地につき右求償権と同額の確定根抵当権を取得したものとして、昭和五五年八月一九日、代田の昭和五四年一二月二八日代位弁済を原因として、同人に対し本件根抵当権の移転登記手続をした。
(四) そこで被控訴人は、旧訴訟において、右(三)の事由から、本件根抵当権はいまだ消滅しておらず、被控訴人には本件登記の抹消登記義務はない旨主張した。そして右主張は、前記認定の本件根抵当権設定契約及び本件登記上の被担保債権の表示からは、理由があるとみることができるものであつた。
以上のような事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
3 以上の認定事実より明らかなように、控訴人と被控訴人との間の本件登記の抹消についての争いは、本件根抵当権の被担保債権の範囲に関するものであつて、右被担保債権を「被控訴人と東商事との信用保証委託契約から生じる債権」とした本件根抵当権設定契約書上の定めをどのように理解するか、契約書上からは被控訴人の主張する趣旨に解されるとしても、控訴人が本件根抵当権契約締結に際し、その被担保債権を東商事が訴外銀行から借り受ける金三〇〇〇万円の債務に関するものに限られると信じていた結果(もつとも、民法第二編第十章第四節の根抵当権に関する規定が公布、施行された現在、保証人の求償権につき設定されるべき担保権は、根抵当権でなく、抵当権ではあるが)、控訴人と被控訴人との間には、それを越える部分につき意思の合致がなかつたとして合意の効力が左右されるかどうかにより決せられるべきものであるところ、被控訴人が控訴人の主張するように、本件根抵当権が既に消滅していることを知り、又は知ることができたのに、あえてこれを争つたことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、被控訴人が前記定めを「債務者と一定の種類に因りて生ずる債権」と定めた規定と理解し、これに沿つた処理をしてきたことは先に認定したとおりであつて、そのことには十分の理由があると認められるから、被控訴人が本件登記の抹消義務を争つたことをもつて、不法行為を構成する不当抗争となるとする控訴人の主張は失当である。
(横山長 野﨑幸雄 水野武)